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2021.03.23 大工と木ぐつ
 今日はオランダの民話、『大工と木ぐつ』をお送りします。
 では、さっそくスタート!

大工と木ぐつ


 むかし、むかし、大昔、空から何百万と言う妖精たちが地上に降りてきて、草や木に姿を変えました。
 そうした木や草の中で、オランダ人たちが一番大切にしたのは樫の木でした。実は似たり、焼いたり、お団子にこしらえたりして食べられますし、皮はなめすと色々の物を作ることが出来、幹は家や船を作る材木にするなど、とても人間の役に立つからです。
 この頃、オランダのある所に、一人の大工が住んでいました。この大工も樫の木が大好きで、自分にも、子供たちにも、みんな樫の木に関係のある名を付けたほどでした。ところが、この時分、古い『森の国』だったオランダも、だんだん開けてきて、人々はどんどん持ちを切り開き始めました。
 大工は、人々が樫の木だろうと何だろうと、お構いなく、森の木をめったやたらに切り倒すのが残念でたまりませんでした。今まで、大きく枝を広げ、青々と茂っていた大木が、ドシーンと地響きを立てながら地面に倒れるのを見るたびに、大工は、
「ああ、何という事だろう、森の木がどんどんなくなってしまう……」
 と、涙を流すのでした。
 ある日、大工が自分の家の入口に腰かけて、ぼんやり考え事をしていると、ふいに、苔の精の娘と、木の精の男とが目の前に現れました。
「私達、樫の木のお爺さんのお使いです。今すぐ、お爺さんの所へ来るようにとの事ですよ」
 二人はそう言うと、また、どこかへ消えて行ってしまいました。
(樫の木が、私を呼んでるって? 何だろう……)
 大工は不思議に思いながらも、自分の大好きな木の事なので、急いで森へ行き、いつも大切にしている大きな樫の木の側へ近づいてみました。そして、ザワザワと木の葉の音を立てている高い所を見上げていると、一本の大きな枝が垂れ下がって来て、
「お前さんは、森の木が切られることを酷く悲しがっているようだが、そんなに悲しまなくてもいいのじゃよ。私や私の仲間達も、今に切られて死んでしまうが、その代わり、お前さん達にとって素晴らしいことが、どんどん起こって来るだろう。今までお前さん達は、私どもの落とす実を拾って食べていたわけだが、私どもが無くなると、今度はもっと良い食べ物が地の中から湧いて出るようになる。そればかりではなく、森が切り開かれて、その後に畑や町が出来ると、私どもは今とは変わった姿で生き返ってきて、お前さん達人間のために、色々と尽くすようになるのじゃ。もっともその時は、私どもは逆立ちをして、頭を踏みつけられることになるのだが……」
 と話しました。
 その話を聞くと、大工は、
(どんな事になるのだろう……)
 と、ただもうびっくりしていると、
「いや、そんなに驚くことは無い。必ず、私が言った通りになるから、今にわかるよ……」
 樫の木の枝はこういって、また葉をザワザワさせたと思うと、枝は元通りになりました。
 大工はまだぼんやりして、そこに立っていると、さっきの苔の精の娘と、木の精の男がまた現れて、
「樫の木を裂いて、三十センチほどの長さに切り、それをよく日に干しなさい。乾いたら寝る前に、その木切れを台所のテーブルの上に乗せておきなさい」
 と、楽しそうに言って消えました。
 大工は、
(今日はなんだか不思議な事ばかりだ)
 と思いながら、とにかく言われた通りにやっておきました。
 次の朝、大工が台所へ入って行くと、夕べ、樫の木切れを乗せておいたテーブルの上に、新しい木の靴が一足置かれているのです。
「おやっ、こんなものが……」
 大工が驚いて靴を手に取ってみると、くつは内側も外側もつるつるに磨き上げられていて、木の良い香りが匂っていました。大工は靴を履いてみたくなり、そっと足を突っ込んで見ると、まるで自分に合わせてこしらえたようにぴったりと合いました。
 大工は嬉しくなって、床の上を歩きだしました。床はすべすべに磨いてあるので、その上に白い砂がまいてありましたが、何せ木の靴ですから、歩くたびにつるりつるりと滑り、大工はまるで氷の上を歩いているようでした。滑ったり、転んだりして歩いている内に、壁にぶつかって、嫌と言うほど鼻の先を打ちました。
(おう、痛い、痛い。なんて滑りの良い靴だろう。これじゃ危なくて、部屋の中では履けやしない)
 大工は鼻をなでながら、部屋の外へ出て行きました。すると、今度は少しも滑らず、うまい具合に歩けるのです。
(そうか、これは、部屋の中で履く物じゃないんだ。今まで、靴など履いた事が無かったが、外を歩く時、これを履くととても具合がいいぞ。良いものが手に入ったものだ。だけど、どうやってこんないい靴を作るのだろう……。それが分からないと、この一足だけでおしまいになってしまうものなあ)
 大工はそれが残念でたまりませんでした。
 ところがその夜、大工は夢を見たのです。夢の中に、色の黒い醜い小人と、色の白い綺麗な小人とが現れて、大工の寝ている部屋へ入って来たのです。そして、色の黒い小人が抱えてきた箱を降ろすと、その中から、色々の道具を取り出しました。
 それは、ノコギリや斧や、カンナや錐などでしたが、その頃は、まだそんな物は無かったので、大工は目を見張って、
(あれは何だろう? 何をする物なんだろうか?)
 と、びっくりして見ていました。
 すると、二人の小人たちは、それらの道具をあれこれ使って、三十センチほどの木切れで、何かを作り始めたのです。まず、色の黒い小人が、木切れの中を深くえぐって、それから外側を足の形に削ると、それを今度は色の白い小人が平らにならしながら、綺麗に磨き上げて靴を仕上げました。
(なるほど、靴はああやって作るのか……。これは有難い。これでもう靴の作り方が分かったぞ)
 大工はいい物を見たと、大喜びしました。
 靴が出来上がると、色の白い小人はその靴を履いて、ぴょこぴょこと踊り出しましたが、床の上なので、たちまちつるりと滑って前のめりに転んでしまいました。
 その時、高い鼻を床に強くぶつけたらしく、起き上がった色の白い小人の鼻は、平べったく潰れてしまっていました。
 小人は鼻を押さえながら、
「うーん、痛い、痛い」
 と泣き出しました。
 この様子を見た色の黒い小人は、おかしそうに、
「大丈夫だよ、すぐ直るよ」
 と言って、色の白い小人の鼻をつまんで、力いっぱい引っ張ると、鼻は元通りになりました。それから二人は部屋から外へ飛び出して、そのままどこかへ消えてしまいました。と同時に、大工も夢から覚めたのです。
(ああ、なんていい夢を見たのだろう。夢のおかげで、オレは靴の作り方がすっかりわかった。さっそく、あんな靴を作って売り出せば、みんな喜んで買うだろうから、大儲けが出来るぞ)
 大工は大喜びして、すぐに夢に中で小人が靴を作る時使っていたような道具を、思い出しながら作りました。それから小人がこしらえていた通りにして、たくさんの木靴を作ると、家の表に“木靴製造所”という看板を出しました。
「へえー、木の靴だとさ。そんなものを履いて、よく歩けるんだろうか……?」
 近所の人たちは珍しがって、試しに履いて見ると、裸足で歩くよりも大層気持ちがいいので、木靴はどんどん売れ始めました。そして、たちまちの内に、男も女も、年寄りも子供も、みんな大工から木靴を買って履くようになりました。
 こうして大工はわずかの間に、大変なお金持ちになりました。大工は幸せに暮らしていると、しばらくして、また不思議な夢を見たのです。
 今度は夢の中に、苔の精の娘と、木の精の男が現れたかと思うと、二人は楽しそうに踊り始めました。大工が近づいて、にこにこしながら、
「楽しそうだね」
 と声をかけた途端、体中真っ黒に汚れた、一人の小人が現れました。
 その小人は、どこかで仕事をしてきたらしく、片手には道具箱を抱え、片方の手には、何だかわけの分からない変な機械を持っていました。
 大工はその機械を不思議そうに見ながら、
「なんだか奇妙な形をしていますが、それは何ですか」
 と尋ねると、小人は、
「ああ、これかね、これは、柱を大地に叩き込むのに使う胴突きというものですよ」
 と答えて、ついでにその使い方も教えてくれました。
 胴突きは、鉄の大きな塊を木の枠にはめ込んで、綱で引き揚げたり、引き下ろしたりするようになっているのです。大工は胴突きの使い方を覚えてしまうと、色の黒い小人はにこにこして、
「さあ、これでもう、貴方はとても大きな仕事をすることが出来ますよ」
 と言いました。
 すると、そばにいた苔の精の娘も、
「そうなんですよ。あなたは、大きなお寺や、立派な家のたくさん並んだ町を作ることが出来るのですよ。あなたは、ずっと前、樫の木のお爺さんが『私ども、木と言う木が、逆さまになって人間に踏みつけられる』と言っていたのを覚えているでしょう。さあ、あなたは木を切りなさい。そして、枝を払って、先をとんがらせて、それを大地に深く叩き込みなさい」
 と、楽しそうに言いました。
 大工はそう言われても、何のことやらよく分からないので、それから苔の精や、木の精の小人や、真っ黒に汚れた小人に向かって、色々と尋ねました。
 その内に、苔の精の娘が心配そうな顔で、しきりに窓の外を気にするようになりました。それは、妖精や小人たちにとって、太陽は大変恐ろしいもので、日光に当たると、たちまち石になってしまうからなのです。それで、苔の精の娘は、みんながつい話し込んでいる内に、太陽が空に昇ってしまっては一大事だと思ったからでした。
 まもなく、
「たいへん! 東の空が明るくなってきたわ!」
 という、苔の精の呼び声に、ほかの者も慌てて、
「それっ、急げ」
 と言いながら、大工の家の窓から飛び出して帰って行きました。と同時に、大工も目を覚ましました。
「また、いい夢を見た。今度は前よりも、もっと金儲けが出来るぞ」
 大工は飛び起きると、じっとしていられず、外へ出て行って、にこにこしながら歩いていました。すると皆が、
「おや、大工さん、ばかに嬉しそうですね。何かいい事でもあるのですか」
 と、声をかけました。
 けれども大工は何も答えず、ただ、にやにやしていましたが、あんまり皆が何回も尋ねるので、とうとう隠し切れなくなり、大工は夕べ見た夢のことを話して聞かせました。
「ふーん、そりゃいい夢だ」
 と、みんなはとても羨ましがりました。
 しばらくして、大工は胴突きを作る工場を立てて、胴突きをたくさんこしらえました。
 それから大勢の人を使って、森から木をどんどん切り出させ、小枝を落としてから幹の先をとがらせて、それを地面に突き立てて胴突きで地の中深く打ち込みました。このようにして、何百本もの材木を、地中に深く打ち込むと、まるで石で築いたようなしっかりした土台が出来るのです。だいたい、オランダは土地が柔らかくて、水気の多い国でしたから、家を建てるには、よほど土台がしっかりしていなければなりません。
 土台が出来上がると、大工はその上に、高い塔のある大きなお寺や、たくさんの家を建てました。こうして大工は、夢の中で言われた通り、自分の力で立派な町を作り上げることが出来たのです。そして、ますます大金持ちになりました。



~おしまい~
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