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 今日は約十日ぶりに『ほら男爵』でいこうとおもいます。

 ではスタート!


 さて、この間の話の続きにかかりましょう。
 吾輩の古い友人エリオット将軍の護るジブラルタル要塞が、フランスとスペインの軍隊に囲まれたと聞いて、吾輩はロドニー卿の率いる食料船の一隊と共に応援に出かけた。
 将軍は、百万の味方を得たように喜んで、まず、要塞内部を案内して守備の状況やら敵の様子を説明してくれた。
 しかし、論より証拠である。吾輩は、かねて望遠鏡作りの名人ドロンドから買っておいた素晴らしい反射望遠鏡で敵の陣地を偵察すると、敵は今まさに我々の方に向かって、三十六ポンド砲を放たんとする一瞬だった。危ない、危ない。
 そこで吾輩は、将軍にわけを話して兵隊に四十八ポンド砲を持って来させて、敵が撃つと同時にこっちもぶっ放した。


 ドッカーン!


 両方の弾は、恐ろしい音を立てて空中で衝突したが、何しろこっちの弾は敵の弾より十二ポンドも違うから、たちまち跳ね返した。


 ブーン!


 弾は敵の陣地に逆戻りして、撃った砲手の首を跳ね飛ばし、アメリカ海岸を越えてバーバリ地方まですっ飛んだ。
 ちょうど、港内には三艘の船が泊まっていたが、その大マストを折り、最後には農家の屋根を撃ち抜いて、お婆さんの二、三本の歯を欠いて、弾は気の毒に、お婆さんの喉につかえてやっと止まった。
 びっくりしたお爺さんは、お婆さんの喉から弾を引っ張り出そうとしたが、どうしてもだめなので、磁石を使って引き寄せて、やっと命を救った。
 一方、敵の弾をはじき返した我が四十八ポンド砲は、我が方に向けられていた敵の大砲を台座もろとも吹っ飛ばし、軍艦の船倉に叩き込んだからたまらない。軍艦は大穴をあけて、千人に余る乗組員もろとも沈没した。
 将軍は吾輩の素晴らしい功績に対して、将軍の位を与えると言ったが、吾輩は硬く断った。半分は怪我の功名だったからである。
 後で分かったことだが、吾輩は味方の四十八ポンド砲に、間違って二回分の火薬を詰めたのだった。それだからこそ、あんなにすごい威力を発揮したのだ。
 吾輩は、その晩の祝賀会で将軍が将校全員の前で吾輩に感謝の言葉を述べた事だけで満足し、このうえは、さらにもう一つ手柄をあげて置き土産にしたいと考えた。そのチャンスは三週間後にやって来た。
 偵察の役目を引き受けた吾輩は、牧師の服装をして真夜中に要塞を抜け出し、敵の目をごまかして、まんまとその陣営深く潜りこんだ。
 そこではフランスの将軍アルトワ伯爵が高級将校と共に作戦会議を開いていた。あくる朝、一斉に突撃して要塞をせん滅しようというただならぬ相談だった。
 変装のおかげで、吾輩は誰にも怪しまれずにこの話を聞くことが出来たばかりか、コーヒーまでご馳走になった。
 やがて彼らがベッドに入り、陣営が寝静まると、吾輩は直ちに行動に移った。
 まず、三百に余る大砲を片っ端から台座から引きずりおろすと、五キロメートルも遥かな海上へ放り込んだ。
 次には大砲の台座と車を、陣営の真ん中にジブラルタルの岩ほどの高さに積み上げて、拳骨固めておでこを一発、お得意の手で、目から飛び出した火花で火をつけた。そして、延々と燃え盛るのを待って、頃はよしと、
「大変だ、大変だ」
 と騒ぎ立てた。
 もちろん、敵の陣営は大混乱に陥った。だが、まさか、吾輩の仕業と思うはずがなく、吾輩は咎められないどころか、
「あなたが見つけてくれなかったら、武器どころか我々全員まで焼け死ぬところだった」
 と感謝された。そして、おそらく要塞から七、八連隊の精鋭が密かに上陸してやったのだろうと結論した。
 かの有名なドリンクウォーター氏は、この時のことを本に書き表しているが、敵の陣営に起こった火災の原因については触れていない。知らなかったからである。知らないはずだ。吾輩は誰にも、エリオット将軍にも話していないのだ。これしきの手柄でちやほやされるのは、むしろ迷惑だと思ったからである。
 そんなことがあってから、約二か月の事だった。
 ある朝、吾輩がエリオット将軍と一緒に朝食のテーブルに向かっていると、突然、窓から一発の爆弾が飛び込んできた。将軍は肝をつぶして逃げ出したが、吾輩はびくともしない。
「こしゃくな」
 とばかり、それが破裂しない内に拾い上げて、岩のてっぺんに駆け上がった。さて、どこへ捨てようかと辺りを見渡すと、敵陣に近い丘に十人ほどの人影が見える。
 何をしているのかと例の望遠鏡で覘くなり、吾輩はドキッとした。
 夕べ、敵陣にスパイとして潜り込んだ味方の将校が捕まって、今まさに縛り首の刑に遭おうとしているではないか。
「これは好都合だ」
 吾輩は爆弾で将校を助けようと思ったが、素手でそこまで投げるには距離が遠すぎる。その時思いついたのは、ポケットの中の石弓だった。
 家を出る時、何かの時にと父がくれた石弓で、昔ユダヤのダビデが巨人ゴリアテを打ち倒したという、いわく付きの物だ。
 吾輩はそれに爆弾を挟んで、えいとばかりに岩の人だかり目がけて投げ込んだ。


 ドッカーン!


 爆弾は破裂して敵の奴らを吹き飛ばした。もちろん、首吊り台もろとも味方の将校も空に吹っ飛んだが、運よく、海上に浮かんでいた味方の船のマストに引っかかって危なく命拾いした。
 この時の石弓は、今でも我が家の書斎に永遠の記念として、大切に飾ってある。
 やがて、どうやら戦局も落ち着いたので、吾輩はエリオット将軍に別れを告げてジブラルタルからイギリスへ帰った。
 吾輩は、ハンブルクの友人たちに贈る土産物が船に積まれるのを見るためにウォッピングまで行ったが、その帰りの事だった。
 タワーウォーフまで来ると、ひどく疲れた。暑さは暑し、一休みしようにも木陰が一つも無い。するとそこに大砲があったので、その中に潜り込んだ。吾輩は、大砲の中がこんなに涼しく居心地のいい物とは知らなかった。いい気持でぐっすり眠ってしまったが、ちょうどその日がイギリス国王の誕生日で、一時になると祝砲が鳴らされるなどとは夢にも思わなかった。
 撃つ方だって、大砲の中で人間が眠っているなどと思う訳がない。正一時になると、遠慮なく大砲は発射された。
 人間大砲、つまり吾輩の身体は、野越え、山越え、川越えて、バーモンゼイとデッドフォードの間のある土地管理人の中庭に落ちた。と言っても、そこは大きな干し草の山で、気を失った吾輩は、そこで三か月も眠り続けた。
 その内に、辺りがあまり騒々しいので目を覚ますと、五百台もの荷車で、干し草の積み出しが始まっていた。だが、眠りがまだ抜けきらず、どこにいるかも気が付かない吾輩の事だ。
 驚いて逃げ出そうとすると、そのはずみに足を滑らせて、干し草の持ち主の頭に転げ落ちた。ところが大変な事が起きた。
 吾輩はかすり傷一つ受けなかったが、相手は打ちどころが悪かったか、そのまま死んでしまった。
 吾輩はどうなる事かと青くなったが、かえって村人から感謝されたのには驚いた。
 後で聞くと、この男は大変な悪い奴で、よその干し草を盗んできては売り飛ばし、またその金を高い利息で貸し付ける憎い鼻つまみであったことが分かった。まあ、天罰というものであろう。
 さて、吾輩の冒険談は……。おっと、喉が渇いた。お茶を飲んでからにしよう。




~つづく~

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