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 今日で、『トールの神話』も最終回です。


 次回からは、また違った物を用意しようと思っています。

 それでは、さっそくスタート!


 いたずら好きのロキの神は、もう一度タカになって大空を飛んでみたくなった。
「それでは、本当にもう一度だけですよ」
 フライアの女神は、宝物のタカの羽をロキに貸した。
 ロキはタカになって大空へ飛び立った。花嫁姿のトールを乗せて、巨人の国へ行った事を思い出した。
「そうだ。巨人の国へ行って、ひとつからかってやろう」
 よせばよいのに、いたずら好きのロキは、巨人の国へ、巨人の国へと飛んで行った。緑の大草原に囲まれた高い山の上に、立派なお城があった。ロキはその城の屋根の上に舞い降りた。
「おう、見事なタカだ! 誰か行って、あのタカを捕まえて参れ」
 城の王様ガイルロッドが大声で叫んだ。鷹捕りの名人と言われている一人の巨人が、するするっと城を上り出した。
 これを見たロキが、飛び上がって喜んだ。わざとその巨人の側に飛んで行っては、するりっと身をひるがえして、ばさっと逃げた。その度に、巨人の顔が赤くなったり青くなったりした。もし、捕まえることが出来なかったら、気の荒いガイルロッド王の鋭い剣が飛んでくるのに違いない。
 鷹捕りの名人は真剣になった。
 ひらりと逃げようとするタカの太い足を、ガッチリとつかんだ。


Tors-myth-10.JPG


 バタバタと物凄い羽音が立った。ロキは必死に逃げようとした。だが、どうにもならなかった。
「偉いぞ! さすがは鷹捕りの名人だ」
 バタバタ暴れているタカをじっと見つめていたガイルロッド王は、ふと、トールに殺された兄のトリム王の事を思い出した。
(そうだ! あの時のタカだ……)
 ガイルロッド王は、辺りがビリビリッと震えるぐらい大きな声で怒鳴った。
「お前は誰だ! 姿を見せろ!」
 ロキは硬く目をつぶって、ぐっとこらえていた。今にきっと逃げるチャンスがある!
「よしっ、逃げられるものなら逃げてみろ!」
 ガイルロッド王は、タカを鉄のかごの中に入れてしまった。
「ああ、もう、駄目だ……」
 ロキはがっかりしてしまった。それでも逃げるチャンスを狙った。ところが、ひと月経ってもふた月経っても食べ物さえくれないのだ。
 悪戯好きで、元気もののロキも、これにはすっかり参ってしまった。
「どうしたら許してくれるのだ」
 と、ついに声をかけてしまった。
「そうだ、いかにもわしは神々の国の者だ。ロキの神だ」
 と、今にも泣き出しそうな声で言った。
「お前がロキの神か。なかなかの知恵者と聞いているが、わしの言う事を聞いたら許してやろう」
 ガイルロッド王は、いかにもずるそうな顔をして言った。
「どんな注文だい」
 ロキの神は、もう真剣だ。
「トールと会いたいのだ。神々の国の英雄の顔を見たいのだ。ただし、あの恐ろしい刀と、手にはめているという魔法の手袋と、不思議な力の出る帯を身につけさせないで連れてきてもらいたいのだ」
 ロキはびっくりした。
「そ、それは無理だ」
 ロキは、トールの身に危険を感じた。
「ロキ、何を考えているのだ。わしはトリムのような目に遭いたくないからな。何も、喧嘩をしようと言うのではない。ただ、あの三つが恐ろしいだけなのだ」
「すると、仲良く酒でも飲もうと言うのかい?」
「そう、そうだとも! さすがは神々の国の知恵者だ」
 褒められると、すぐいい気になるロキだ。
「よし、きっと三つの宝を置いて連れてくるよ!」
 と、嬉しそうに叫んだ。
「よろしい、では、神々の国へ飛んでいけ!」
 鉄の扉がさっと開けられた。
 ロキは素早く大空へ飛び立った。
 だが、何も食べていないので、思うように飛べない。ふらふら飛びながら、やっと神々の国にたどり着いた。
 タカの羽をフライアの女神に返すと、元のロキになって、トールの所へ行った。
「どうした、ロキ! しばらく顔を見なかったが、どこへ行っていたのだ」
 ロキの顔を見ると、トールは嬉しそうに叫んだ。
「実は……フライアの女神には内緒だよ。タカの羽を借りて、巨人の国へ遊びに行ったのだ」
「えっ、巨人の国へ?」
「ガイルロッドの城だ」
 そう言ったロキは、いかにも楽しそうに話しだした。
「いや、本当だ。あんないい巨人は初めてだ。そのガイルロッド王が、是非お前に会いたいというのだ」
 ロキは、なおも楽しそうに喋り続けた。
「そうか。そんなに、わしと会いたがっているのか」
 しばらく考えていたトールは、
「よしっ、行こう! その代わり、お前も一緒だぞ」
 と言った。ロキはびっくりした。
「えっ!」
「嫌か。嫌なら、わしもやめる」
「行く、行くよ。行けばいいんだろう」
 トールはさっそく旅の支度をした。力帯を締め、鉄の手袋を持った。
「トール、駄目だよ! そんなものを持って行くと、喧嘩に来たと思われるだろう。ほら、トリムの事で、巨人たちは酷く怖がっているんだ。第一、お前ほどの者が、そんなものが無くては、巨人の前に行けないのかい」
 ロキにそう言われて、トールはなるほどと思った。そこで、三つの宝を置いて旅に出た。
 お供は、ロキとトールの家来になった百姓のせがれ、少年チアルフであった。
 巨人の国との境に近づいた時、日が暮れた。そこでフイダルの神の城に泊まることにした。
 みんなが寝静まった頃、フイダルの神のお母さんが、トールの側にやって来た。
「トール、お前さんは、見たところ丸腰だが、それは危険だよ。ガイルロッド王は、お前に殺されたトリム王の弟なんだよ」
「えっ、本当ですか?」
「ロキは知らないんだよ。だから、油断はできないよ。さあ、これを持っておゆき。力帯は、肌にじかに締めると見えないだろう。それからこの杖は、お前のミヨルニルと少しも変らぬほど、役に立つよ」
 トールはしわだらけの顔をじっと見つめた。
「有難う!」
 フイダルの神の母、グリッドは、ニコッと笑うと立ち去っていった。
 もちろん、ぐっすり寝込んでいるロキは、知るはずがなかった。
 朝が来ると、巨人の国へ出発した。
 まもなく、フィメルという大きな川にぶつかった。
「きれいな水だな」
 と、チアルフが言った。
「流れも静かだし、それほど深そうでも無いし……よしっ、歩いて渡ろう!」
 ロキが真っ先に水の中へ入って行った。
「油断をするな! この川は、巨人の国の川だぞ」
 三人が川の中ごろに差し掛かった時だ。
 ふいに、水かさが増して、流れが速くなった。
「あっ、危ない! チアルフ、わしにつかまるんだ」
 真っ先にしがみついたのはロキだ。
 トールは魔法の杖を突き立てて、ぐっと川上を見た。
 川は幅が急に狭くなって、両岸に足をかけて立っている若い女がいた。ガイルロッド王の娘ギアルプだった。
 トールは素早く足元の岩をつかむや、
「えーい!」
 と娘をめがけて投げつけた。娘はびっくりして風のように消えてしまった。
 川は、もとのように穏やかな清流となった。
 川を渡り、ガイルロッド王の城に着いた。
 ロキの足は、がくがく震えていた。
 三人は、すぐ大きな部屋に案内された。
「綺麗な部屋だな!」
 チアルフが、目を丸くして叫んだ。
 ところが、ロキは不思議そうに首をかしげていた。
「窓も無い、真四角な部屋……。それに、真ん中に椅子が一つ、ぽつんと置いてあるだけだ」
 その椅子には、ぴかぴか光るきれがかかっている。その上に、柔らかそうな布団が置いてある。
「これは有難い」
 そう言って、トールがその椅子に腰を下ろした途端、椅子がむくむくと動き出して、あっと言う間に空中へ飛びあがった。天井は大理石だ。
「あっ、危ない!」
 思わず叫んだチアルフの声が、部屋の中に響いた。
 ロキは、飛び上がった椅子の下から出ていた二人の娘の顔を見ていた。耳まで裂けた真っ赤な口が火を吹いていた。


Tors-myth-12JPG


 だが、チアルフは天井の方を見つめていた。大切な主人トールが、潰される。
「ああ……」
 と、思わず叫んでいた。が、飛び上がった椅子が急にドスン! と落ちてきた。トールが魔法の杖で天井を突いたからだ。
 ギャッ――
 ギャッ――
 ガイルロッド王の娘ギアルプとグライプは押しつぶされて死んでいた。
 そこに、ガイルロッド王が現れた。
「よくもやったな! 娘と兄の仇だ!」
 巨人ガイルロッドは、真っ黒な髪を逆立てて、トールをにらみつけた。
 トン、と足を鳴らすと、足の下から鉄の釜が飛び出してきた。中に、真っ赤に焼けた鉄の塊が不気味な光を放っていた。
 何をするのか?
 ロキは真っ青な顔をして、後ろの壁にピタッとくっついていた。歯がカチカチと鳴っている。
 トールは素早く鉄の手袋をはめた。
 と同時に、
 ウオー――
 と、ものすごい気合が響いた。
 そのトールをめがけて、真っ赤に焼けた鉄の塊が飛んできた。
「あ……」
 ロキは気を失いかけた。
 はっと気が付くと、その火の塊が、トールの手からガイルロッド王へ――突き刺さるように飛んでいた。
 にこっと笑っていたガイルロッド王が、崩れるようにその場に倒れた。
 声も聞こえなかった。
 叫び声も、何も聞こえなかった。
 ロキは、目を激しく瞬いた。
「ロキ、お前が言う通り、本当に面白かったぞ! さあ、チアルフ、帰ろう」
 そう言って、トールが初めてニコッと笑った。
「ま、待ってくれ! これは、一体どうなっているんだい?」
 ロキは慌てて、倒れているガイルロッド王の側に飛んできた。見ると、巨人ガイルロッド王の厚い胸に、ぽっかりと大きな穴が空いていた。
「すごかったなあ。ガイルロッドは、真っ赤に焼けた鉄の塊を、トールの神目がけて投げたんだ」
「チアルフ、ちょっと待ってくれ! 何を投げたんだい? オレにはよく分からなかったのだ」
「黒い、火を挟むようなものだったよ。そしたらトールの神が、それを受け取って投げ返したのさ」
 少年チアルフは、しっかりと見ていたのだ。
「偉いぞ、チアルフ!」
 と、トールが言った時、ロキがまたふいに慌てて叫んだ。
「ト、トール! 石に、石になった。ガイルロッドが、石になったぞ!」
 トールもチアルフも、不思議な不思議な事を見た。倒れていた巨人が、石に変わっていたのだ。
 トールは、ガイルロッドの倒れていたままの形をした石に手をかけた。
「トール、ど、どうするんだ!」
「丘に立ててやるのさ」
 石を担いだトールは、小高い丘の上へ歩いて行った。




~おしまい~

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