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 お妃は、たいそう悲しみました。可哀想な男は、お妃がこれまで度々夢の中で見た王子とそっくりの顔をしています。あれこそ本当の王子に違いないのです。
 けれども、にせの王子は証拠の剣を持っています。それに、オーマール王子から聞いた身の上話を王様に聞かせて、ばれないようにしています。王様はすっかり騙されて、偽物を本当の王子と信じ切っています。
(どうしたら、あれが偽の王子だと分かってもらえるかしら)
 お妃は一生懸命考えました。なかなか良い考えが浮かびません。それで、賢い召使の女たちを呼んで相談しました。
 すると、メレヒサラーという、賢いお婆さんの召使が言いました。
「証拠の剣を持った男は、お妃様が王子様だと思っていらっしゃる方の事を、洋服屋のラパカーンだと言ったそうではありませんか」
「ええ、そうですよ」
 と、お妃は言いました。
「もしや、その嘘つきは、自分の名前を王子様におっかぶせて、自分はオーマール王子に成りすましているのではないでしょうか。もしそうでしたら、上手い計略が御座いますよ」
 と言って、お婆さんはお妃に、何か耳打ちをしました。
 お妃はすぐ、お婆さんの考えた計略をやってみる事にしました。
 次の朝、お妃は王様に言いました。
「王様、お互いに機嫌を悪くしているのは嫌で御座います。それで、私はあの若者を、私の息子に致しましょう。その代わり、一つだけお願いがあるのですが、聞いて頂けるでしょうか」
「良いとも。どんな願いだ、言ってみるがよい」
 王様は、お妃の機嫌が直ったので、ほっとして言いました。
「私はあの二人に、腕比べをさせたいので御座います。でも、馬に乗ったり槍投げをしたりするのはありふれています。それで、変わった事をさせたいのです。私は二人に、上着とズボンをこしらえさせて、どちらが上手にできるか見たいので御座います」
 お妃がこう言うと、王様は笑いました。
「なるほど、それは面白い。私の息子と、お前のき○がいの洋服屋と、どちらが上手に服が縫えるか、腕比べをさせるのだな。いや、それは駄目だ。き○がいでも、洋服屋の方が巧いに決まっているからな」
「でも、王様は、わたくしのお願いを一つだけ許すと約束なさったではありませんか」
「そ、それは約束した。しかし、き○がいの洋服屋が私の王子より上手に服を作っても、私の息子と認める事は出来んぞ」
 王様はこう言って、お妃の願いを許しました。
「困ったことになった」
 王様は、新しい王子様の部屋に来て言いました。
「どうなさったので御座いますか、お父様」
 王子になりきったラパカーンは、心配そうに尋ねました。
「妃が、お前に洋服をこしらえてもらいたい、と申すのだ。お前には無理だろうが、母親を慰めると思って聞いておくれ」
 王様は気の毒そうに言いました。
 けれどもラパカーンは、仕立物ならお手の物ですから、心の中で、しめた、と思いました。
「宜しゅう御座います。お妃さまのおっしゃる事なら、なんでも致します」
 と、神妙に言いました。
 新しい王子様と、き○がいの洋服屋は、二つの部屋に分かれて、腕比べを始めました。裁縫台の上には、針やハサミ、長い絹のきれ等が置いてあります。
 王様は、新しい王子が上手に洋服を作ってくれれば良いが、とハラハラしながら待っています。
 お妃の方も、計略が上手くいけば良いが、と胸をドキドキさせています。
 洋服は、二日で縫い上げる事に決めてありました。それで、三日目になると、新しい王子とき○がいの洋服屋は、それぞれ縫い上げた洋服を持って、王様とお妃の前へ出ました。
 ラパカーンは、大いばりで自分の縫った洋服を広げて見せました。
「御覧ください、お父様、お母様。お城の中で一番上手な裁縫師でも、これほど立派な洋服が作れるでしょうか」
 お妃はニッコリして褒めました。それから、オーマールに向かって言いました。
「お前は、どんなものをこしらえましたか」
 オーマールは、まだ何も出来ていません。きれやハサミを腹立たしげに床に投げつけました。
「私は馬に乗ったり剣や槍を使う事は習いました。けれども、縫物を習った事はありません。そんな事はカイロの総督の息子ともあろう者のする事ではないでしょう」
「おう、そうですとも。お前こそ、王様の本当の子です。私の可愛い息子です」
 お妃は、嬉しそうに言いました。それから、王様の方を向いて静かに言いました。
「あなた、こんな企みをして、お許し下さい。でもこれで、どちらが王子でどちらが洋服屋の職人かお分かりになりましたでしょう。王子に成りすましているあの男の作った洋服は、とても上手で御座います。どんな裁縫師でもかないません。一体お前は、どこの洋服屋で、縫物を習ったのですか」
 お妃にこう尋ねられて、ラパカーンは真っ赤になりました。
 いい気になって縫物の腕前を見せてしまったので、とうとう、身元がばれそうになりました。
(しまった!)
 と思っても、もう追いつきません。




~つづく~

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