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 ラパカーンは町の外に出ると、気がウキウキしました。前からなりたいなりたいと思っていた王子様に、とうとうなれたからです。まだ、本当の王子さまではありませんが、格好だけは王子様にそっくりです。顔も姿も美しいし、言葉も上品です。
 ラパカーンがゆっくり歩いて行くと、よその国の人たちはびっくりしました。
「まあ、どこの国の王子様かしら。綺麗なお召し物だこと。立派なお姿だこと。でも、どうして、てくてく歩いていらっしゃるのかしら」
 人々は不思議がって、ラパカーンに尋ねました。
「あの、王子様、貴いご身分のお方が、どうして歩いて旅をしていらっしゃるのですか。馬やご家来は、どうしたのですか」
「いや、あの……それは、ちょっと訳があってね」
 ラパカーンは困って、口の中でむにゃむにゃ言って、誤魔化しました。
(なるほど、王子様がてくてく歩いているのは、変に見えるだろうな。よし、馬に乗ることにしよう)
 ラパカーンは、値段の安い馬を買いました。その馬はよぼよぼの、年寄り馬でしたので、今まで馬に乗ったことのないラパカーンでも、どうにか乗れました。
 ラパカーンは、その馬にムルバアという名を付けて、ぽくぽくと乗っていきました。
 ある日、田舎道を進んでいますと、後ろから、若い馬に乗った美しい若者が、ぱかぱかと威勢よく馬を走らせて、そばへ寄ってきました。
「やあ、こんにちは。いいお天気ですね。あなたも、一人で旅をしているんですか」
 美しい若者は、楽しそうに話しかけました、
「ええ、そうです」
 ラパカーンが答えますと、若者はニコニコして言いました。
「では、一緒に行きませんか。話をしながら行くと、遠い道でも退屈しませんからね」
「そうですね。一緒に参りましょう」
 ラパカーンは、その若者が美しくて上品なので、喜んで承知しました。
「あなたは、どこのお方ですか。僕はオーマールという者で、カイロの総督、エルフィ・ペイの甥です。このおじが死ぬ時に、ある事を僕に言いつけました。僕は言いつけられたことをするために、こうして旅をしているのですよ」
「そうですか。あなたは、本当に身分の高い方なんですね」
 ラパカーンは羨ましそうに言いました。すると、売る駆しいオーマールは笑って、
「君だって、その立派な服を着ているところを見ると、身分の高い人なんでしょう」
「ええ、それはそうですが、訳があって、私は名前を明かせません。私はただ、楽しみに旅をしているんですよ」
 ラパカーンは、こう言って誤魔化しました。
 二人は連れ立って歩いている内に、仲良しになって同じ宿に泊まりました。
 二日目の晩、ラパカーンはオーマールに尋ねました。
「あなたのおじさんの言いつけと言うのは、どんな事なのですか」
「それはね、とても不思議な事なのですよ。僕はおじさんの総督に、子供の頃から育てられたので、総督を、本当のお父さんだと思っていたのです。ところが、総督は死ぬ間際に、僕は、ある偉い王様の子供だと教えてくれたのです。その王様は僕が生まれた時、神様にお参りすると、悪いお告げがあったのです。『王子を御殿に置くと、必ず悪者に殺される。二十二になるまで、他所へ隠しておくがよい』。こういう事があったので、生まれたばかりの僕は、父の友達の総督に預けられたのだそうです。ところで間もなく二十二になるので、お父様に会いに行くのですよ」
「そうですか。貴方のお父様は、なんという名の王様ですか」
 ラパカーンは尋ねました。
 するとオーマールは首を振って、
「お父様の名前は知らないのです。ただ、この九月の四日に、ここから東の方にあるエル・ゼルルーヤーの円柱の下に行くのです。その円柱の下で待っている人に剣を渡して、僕は『あなたのお捜しになっている人はここにいます』と言うのです。もし、その人が『預言者マホメットに栄あれ、王子をお救い下さって有難う御座います』と言ったら、僕はその人について行きます。その人が、僕をお父様の所へ連れて行ってくれることになっているのです」
「それじゃ、あなたはもうじき、本当の王子様になれるんですね」
 ラパカーンは妬ましそうに言いました。目の前にいるオーマールが羨ましくてたまりません。
 オーマールは総督の所で幸せに暮らしてきたのに、まだそのうえ、王子様になれるのです。ラパカーンは腹が立ちました。
(僕とオーマールとどこが違うんだ。僕だって、オーマールに負けないくらい美しいし、上品な話し方が出来る。僕の方が、本当の王子様よりずっと王子様らしいよ。それなのに、あいつは本当の王子になれるのに、オレは王子様の真似をしているだけだ。一生いやしい、すかんぴんでいなければならないのだ。こんな酷い事があるもんか)
 オーマールの生き生きした目や、つんと高い鼻、静かな歩き方などを見ると、憎らしくてたまりませんでした。
 あくる朝、目が醒めると、オーマールはラパカーンの横ですやすや眠っていました。優しい口元は、今にもにっこり笑いだしそうです。きっと、幸せな夢を見ているのでしょう。帯には見事な剣をさしています。その剣は、王様に会う時の目印の剣です。
 その剣を見ると、ラパカーンは、むらむらと悪い心が起こりました。


Niseouji-2.JPG


 ラパカーンは、抜き足、差し足、王子様に近寄って、その剣を抜き取ると、自分の腰に差しました。そして、こっそり部屋から抜け出すと、王子様の良く走る馬に飛び乗って、ぱしっと鞭を当てました。
 たっ、たっ、たっ、東をさして、まっしぐらに走りました。
 まもなく、王子様は目を覚ましました。
 気が付いてみると、帯にさしておいた剣がありません。一緒にいた友達もいなくなっています。
「しまった。盗まれたんだ。あの剣が無いと、お父様に会えない。ああ、どうしよう」
 王子は髪をかきむしって悔しがりましたが、もう、どうすることも出来ません。
 ラパカーンはよく走る馬で、百キロも先を全速力で飛ばしていたのです。




~つづく~

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