FC2ブログ

 老人の小屋の周りは、まるで花園のような美しさでした。目玉を取り戻した娘が、にこにこ笑って小屋の周りを歩くので、バラの花が咲き、緑の草が生えたからでした。
 訪ねてきた侍女頭は驚きました。もし、この事が王子に知れたなら、自分の娘はどうなるだろう、と思うと、身体が震えてきました。
 侍女頭は、老人をそっと木の陰に連れ出しました。
「実は、王子様が、このごろどうも病気がちなのです。それで、色々と調べますと、この近くに不思議な魔女が住んでいて、その呪いがかかっているからだという事が分かりました。その魔女と言うのは、お前さんと一緒に暮らしている娘なのです」
「えっ、あの娘が、魔女だなどと、そ、そんな事など……」
「いえ、間違いありませんよ! だから、バラの花を咲かせたり、真珠の玉を出したりもできるのです。このまま放っておくと……」
 侍女頭は、老人をにらみつけて脅しました。
「すると、あの娘をどうすれば良いのですか?」
 老人は、おろおろしながら訊きました。
「その娘に、お前に不思議な力を授けているお守りは何だね、と訊くのです。それが分かれば、その後は、私がうまく取り計らって、娘さんが不幸にならないようにしてあげます」
「そうですか、宜しくお願いします」
「明日の昼に、また来ます。それまでに聞いておいてくださいよ!」
 侍女頭は、そのまま帰りました。
 その夜、老人は、娘にそれとなく言いました。
「小屋の周りがすっかり綺麗になって、こんな嬉しい事は無いよ。でも、あなたは人間でありながら、どうしてこんな不思議なことが出来るんだね?」
 すると、娘は自分に不幸な事が起きるとも知らずに、
「わたくしのこの力は、生まれた時に仙女たちがお授け下さったものなのです。わたくしのお守りは、山の上に住んでいる牡鹿です。その牡鹿が死ぬと、わたくしも死ななければならないのです」
 と、正直に答えました。
 次の日、侍女頭は老人からこの話を聞きました。
(そうか、山の上の牡鹿だったのか……)
 侍女頭は大喜びで宮殿に帰ると、娘に言いました。
「いいかね。しばらくの間、偽の病人になるのですよ。そして王子様に『山の上にいる牡鹿をとって来てください。その牡鹿の肝を食べませんと、この病気は治らないので御座います』と、言いなさい」
 偽の病人は、母親に言われた通りに頼みました。
「そうか。では、すぐにその牡鹿をとらせよう!」
 王子の命令で、三人の家来が弓を持って山に行き、眠っていた牡鹿を射殺しました。もちろん、偽の病人はその肝を食べました。
 お守りの牡鹿が死んだので、娘も眠ったままの姿で、朝になるともう死んでしまっていました。
 老人は悲しんで、死体のそばで、一日中泣き続けました。次の日も、その次の日も、泣き続けました。
 こちらは、娘を王子様の宮殿へ送った木こりの家です。木こりの夫婦は、娘が王子様のお嫁さんになって幸せに暮らしているものとばかり思っていました。
 すると、ある夜、木こりの妻は、不思議な夢を見ました。一人の仙女が現れて言いました。
「あなたの娘の真珠姫が、ある山の中の小屋で死んでいます」
「えっ、そんな!」
「本当です。でも、生き返らせる方法が一つだけあります」
「それは、どんな方法でしょうか。どうか、教えて下さい!」
「ここから王子の宮殿へ行く途中の森の中に、小さな泉があります。その泉の水は、命の水です。その水を口に入れると、心の美しい人だったら生き返らせてもらえるのです。さあ、すぐにお出かけなさい」
「はい、有難う御座います……」
 妻は、そこで目が醒めました。と、それと一緒に、夫の方も目を覚ましました。
「私は今、不思議な夢を見ました」
 妻が仙女の事を話すと、夫の方も、それと同じ夢を見たと言いました。
「すると、ただの夢とは思われません。すぐに出かけてみましょう!」
「きっと神様が教えてくれたのだろう。すぐに行こう!」
 気持ちのあせる夫婦は、まだ夜の明けないうちに家を出ました。走るような速さで歩いて、次の日の昼頃、やっと森の中に湧き出ている泉を見つけました。
 夫婦は泉の神にお祈りをしてから、その水を小さな瓶に入れて、また急ぎました。
 それから三日目、今度は山の中の小屋を見つけました。小屋の周りには、美しいバラの花がいっぱいに咲いています。
 それなのに、小屋の中には、娘ともう一人の老人が並んで死んでいました。木こりの夫婦は、急いで二人の口へ、命の水を注いでやりました。
 と、まず、娘の方が生き返りました。
「あ、お母様!」
 娘は母親に抱き着きました。すると、その声で、老人の方も目を開きました。
 生き返った二人から、今までの事を聞いて、木こりの夫婦は驚きました。
 次の日、四人はバラの花と真珠の玉を持てるだけ持って、宮殿に向かいました。
「なに、美しいバラの花と真珠の玉をいっぱい持った娘がわしに会いたいと……?」
 取り次ぎの侍女の言葉に、王子は立ち上がりました。側にいた侍女頭が、顔色を変えて止めました。
「王子様、それはきっと、山の中に住んでいる魔女です。そんな者にお会いすることなどありません!」
「いや、しかし、わしはそのバラの花を見たいのだよ。その者を庭に通しなさい」
 王子は侍女頭の手を払いのけて、庭に出てみました。と、そこに立っている美しい娘は、間違いも無く夢の中で見た、あの真珠姫でした。
「おう、そなたは、真珠姫!」
 王子は叫びました。娘は、にっこり笑いました。すると、そのすぐ前に、美しいバラの花が咲きました。
 さあ、その後、宮殿の中は大変な騒ぎになりました。悪だくみをした侍女頭とその娘が、重い罰を与えられたのはもちろんです。
 王子と真珠姫の結婚式は、盛大に行われました。
 姫の父母の木こり夫婦も、山の老人も、宮殿の中に住むことになって、幸せに暮らす事が出来ました。




~おしまい~

スポンサーサイト



Secret

TrackBackURL
→http://ishimarusyoten.blog.fc2.com/tb.php/3343-f05db9a3