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 それから、長い年月が夢のように過ぎました。
 貧しい木こりの家に生まれた赤ちゃんも、もう十二歳の娘さんに成長しました。この娘を一目見た人は、誰もが皆、その可愛らしさと美しさにうっとりしました。いえ、そればかりか、この娘が笑えば、美しい花が咲き、泣けば涙の代わりに真珠の玉がこぼれ、歩けばどんな荒れ地にも緑の草が生えるのです。
 その噂は、やがて遠くの国々まで広がっていきました。
 ある国に、一人の王子がいました。王子の母は、真珠姫の噂を聞くと、ぜひ王子のお嫁さんに迎えたい、と思いました。そして、毎日、神様に祈りました。
 すると、その母の気持ちが通じたのか、ある夜、王子は不思議な夢を見ました。一人の仙女が現れて、王子に言いました。
「王子様、私の後ろにお立ちになっている姫をご覧なさい。この姫は、笑えばバラの花を咲かせ、泣けば真珠の玉をこぼし、歩けばその足跡に緑の草が生えるのです」
「えっ、すると、真珠姫?」
「そうです。真珠姫です。この姫こそ、王子様のお嫁さんにふさわしい姫なのですよ」
 王子は起き上がって、仙女の後ろに立っている姫を見つめました。と、その美しさと愛らしさに驚きました。


Shinjuhime-1.JPG


 あくる朝、王子はその夢の事を母に話しました。
「では、わたくしの願いが神様に通じたのでしょう。さっそく、その真珠姫を探す事にしましょう」
 喜んだ母君は、すぐ、侍女のかしらを呼びました。
「そなたは、年をとっているうえに、女の身で気の毒に思うが、これからすぐ、真珠姫の住んでいるという山へ行ってくれぬか」
 母君は、侍女頭に、細かい事まで注意をして、旅立たせました。
 二人の侍女をお供に連れた侍女頭は、長い旅の末、やっと木こりの家を探し当てました。
 話を聞いて、木こりの夫婦は喜びました。自分たちのような貧しい木こりの娘を、王子のお嫁さんに迎えたいという、まるで夢のような話です。もちろん、娘の方も喜びました。
「では、その内に、改めてお迎えに参りますから、今からお支度をしておいて下さい」
 そう言い残して、侍女たちは木こりの家を出ました。
 しかし、帰る途中でした。侍女頭は、何度も立ち止まってつぶやきました。
「なるほど、真珠姫と呼ばれるだけあって、あの娘さんは美しい。けれども、いくら美しくても、貧しい木こりの娘が王子様のお嫁さんになど……」
 侍女頭がそう思うのには、もう一つ訳がありました。と言うのは、この侍女頭にも、木こりの娘と同じ年の娘がいるのです。その娘は、木こりの娘ほどの美しさではないけれど、でも、どこか似ているところもありました。もし、木こりの娘がいなかったら、自分の娘が王子のお嫁さんになれたかも知れない、と思う気持ちがあるからでした。
 ともかく、宮殿に帰った侍女頭は、木こりの夫婦も娘さんの方も、喜んで承知してくれました、と報告しました。
「そうですか。ご苦労でした。では、なるべく早くお迎えに行くように、準備を整えましょう」
 母君も王子も、大喜びで、宮殿の中は急に忙しくなりました。
 準備も出来て、侍女頭は、今度は五人の侍女をお供に連れ、二台の馬車で木こりの娘を迎えに出発しました。
 木こりの家でも、もう支度が出来て待っていました。
「それでは、娘の事はくれぐれもよろしくお願い申し上げます」
 木こりの夫婦は、侍女頭に何度も何度も頭を下げました。
 前の馬車には木こりの娘――いや、宮殿から送られた立派な着物を着た真珠姫と、侍女頭の二人が乗り、後ろの方には、五人の侍女たちが乗りました。
 さて、その帰り道でした。侍女頭は、真珠姫に食べさせる食事は特別に塩辛いものばかり食べさせました。ですから、真珠姫は喉が渇いて仕方がありません。
「あの、お水を一杯下さい」
 姫は、侍女頭に頼みました。
「はい、差し上げたいのですが、でも、まだまだ続く長い旅ですし、この辺りには泉もありませんので、水はとても大事なのです。しばらく我慢をして下さい」
 侍女頭は、冷たく断りました。
 真珠姫は我慢をしました。けれども、しばらく経つと、もうどうにも我慢が出来なくなりました。
「お願いです。水を飲みませんと、もう死にそうです。ほんの少しだけでも、どうかお願いします」
 姫は、苦しそうに悶えながら頼みました。
「そうですか。それほどまでにおっしゃるなら、あげましょう。その代わり、あなたの片方の目玉を渡してもらいましょう!」
「え、わたくしの目玉を……?」
「そうです!」
 侍女頭は、冷たく笑って言いました。
 苦しさに我慢できない真珠姫は、仕方なく、左の目玉をとって渡しました。そして、ほんの少しの水をもらいました。
 けれども、また少し経つと、真珠姫は、前よりもっとひどく喉が渇き、苦しくなりました。
「お願いです。もう一杯、お水を……」
 すると、侍女頭は、また冷ややかに笑って言いました。
「では、残っているもう一つの目玉を渡しなさい。そしたら、今度はたくさんの水をあげますよ」
 苦しくて死にそうな姫は、仕方なく、残っている右の目玉をとって渡しました。
 侍女頭はにやりと笑って、今度は前よりも少し多くの水をやりました。
 その水を飲んだ真珠姫は、やっと、乾いた喉は治りました。が、二つの目玉を取られてしまったので、もう何にも見えなくなってしまいました。
(すると、この人は……?)
 真珠姫は、今になって、侍女頭の悪だくみに気が付きましたが、もう、どうすることも出来ません。
 突然、侍女頭が、馬車を止めました。そして、後ろの馬車の御者に向かって、
「わたくしの方の馬車は、お姫様がお疲れだから、ここで少し休んでいきます。そなたの馬車は先に行って、向こうの森で待っていなさい!」
 と叫びました。
「はい、分かりました」
 後ろの馬車は、横を通り抜けて、先に出かけました。
 さて、その馬車が見えなくなると、侍女頭は自分の馬車の御者に言いつけて、目の見えない真珠姫をぐるぐると縛らせました。それから、籠の中に入れて岩の陰に運ばせました。そこには、真珠姫と同じ姿をした、侍女頭の娘が待っていたのです。
「さあ、早く!」
 侍女頭は目の見えない真珠姫を籠に入れたまま置き去りにして、替わりに自分の娘を馬車に乗せたのです。馬車は走り出しました。




~つづく~

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