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 今日は『文庫本コーナー』です。


 本文の方も、『文庫本コーナー』でいきます。最近は1話完結の短編が多かったですが、今回は久々に数回に分けた中編で行こうと思います。

 お話は、ペルシャ民話『ばら姫と青い仙人』です。


 では、本文スタート!


ばら姫と青い仙人



 昔、ペルシャという国を、アザット王が治めていました。アザット王は学問に優れているばかりか、強くて勇ましく、どこの国と戦争をしても負けた事がありませんでした。
 アザット王を恐れるよその国の王たちは、色々な宝物をもって、ご機嫌を伺いに来ました。
 しかし、外には恐れられている王も、国民には優しく、父のように親しまれ、神のように敬われてもいました。
 けれどもそんな王にも、自分の力ではどうすることも出来ない、一つの悩みがありました。王位を継ぐ王子も姫も、生まれない事でした。
「私はだんだん年をとってしまいます。どうか王子をお授け下さい」
 アザット王は、毎日、神に祈り続けました。
 ある夜の事でした。アザット王は、不思議な夢を見ました。いや、それは、夢などではなかったのかも知れません。
 寝室の扉が音も無く開いて、誰かが入ってきました。
 若い美しい女の人でした。なお、良く見つめると、地上では見た事も無い立派な着物を着て、金色に光る杖を持っていました。
「あなたはどなたですか?」
 王は、少し震える声で尋ねました。
「私は妖精です。妖精の女王様のお言いつけで、あなたをお迎えに参りました」
 やがて、そっと宮殿を抜け出た二人は、青い月の光に照らされながら、ずんずん歩いて行きました。
 町を過ぎ、広い荒れ野に来ました。生い茂る草の中に、こんこんと水の湧き出ている泉がありました。
 妖精は、泉の前で止まりました。
「この泉の中に入るのです」


Barahime-1.JPG


 妖精は王の袖をつかんで、どぶんと水の中に飛び込みました。
 二人はずんずんと泉の底へ沈んでいきます。が、不思議にも、身体は少しも濡れませんでした。
 泉の底には、立派な館が建っていました。
「女王様の館です。どうぞ」
 館の中は、目のくらみそうな美しさでした。たくさんの妖精たちが並んでいて、正面の高い所に座っているのが、女王であることはすぐ分かりました。
 その女王が、王に向かって言いました。
「アザット王ですね。あなたは国民たちから、父のように慕われている立派な王です。でも、一つだけ大事な事を忘れていますね。その事でお呼びしたのです」
「それは、どんな事で御座いましょう?」
 王は、丁寧に頭を下げて訊きました。
「あなたは今、たくさんの宝物を持っていて、国の中も平和ですね。でもそれは、あなたの国の兵士たちがいつも勇敢に戦ってくれたおかげでしょう。しかも戦いの度に、たくさんの兵士たちが命をなくしているでしょう」
「はい、その通りで御座います」
「あなたは地上の国民には優しい王ですが、戦いで命をなくした兵士たちには、どんな事をしてあげましたか?」
「どんな事をと申されても……」
 王は、後の言葉に詰まりました。
「わたくしが大事な事と申したのはその事です。あそこをご覧なさい」
 女王は、開いている窓の一つを指さしました。あまり広くない庭に、たくさんの小人たちがにぎやかに遊んでいました。
「あの小人たちは、あなたの命令で勇敢に戦い、命をなくした兵士たちです。地上での命は消えても、魂は小人になって、ここに生きているのです。でも、この庭が狭いので、小人たちが思うように遊べないことが分かるでしょう。そればかりか、あの小人たちには、夜になっても泊まる館も無いのです。可哀想とはお思いになりませんか」
「は、はい……」
 女王の言葉に、王は目頭が熱くなってきました。
「あの小人たちのために、広い庭と大きな館を作ってあげてもらいたいのです。たくさんの宝物を持っているあなたには、それが出来るはずです。そうすれば、神様もきっと、あなたの望んでいる事をかなえて下さるでしょう」
「はい、分かりました。すぐにでも、と申しましても、この泉の底に、どのようにして庭や館を作ることが……」
「いえ、その心配はいりません。庭も館も、地上に作ればよいのです。小人たちには、地上も地下も無いのです。ただ、地上の人の目には、小人の姿が見えないだけです。それに、地上に作った広い庭や大きな館は、あなたの国民も一緒になって楽しむことが出来るのですから」
「はい、よく分かりました。お約束を致します」
 王はきっぱりと言いました。と、その途端でした。アザット王は、ふっと我に返りました。
「はてな……?」
 王は目をこすりながら、辺りを見回しました。そこは荒れ野の中でした。生い茂る草の中の泉の側に、たった一人で立っているのでした。
 アザット王は、急いで宮殿に帰りました。
 やがて国中の建築家が集められ、工事が始められました。
 広い荒れ野は、見る見るうちに大庭園になり、草の中の泉は、美しい噴水の池に変わりました。庭園の真ん中に建てた館も出来上がりました。黄金や宝石をちりばめた館は、昼は太陽の光に、夜は色とりどりの灯の光に、きらきらと輝きます。
 アザット王は、その庭園や館へ、国民たちを自由に出入りさせました。
「アザット王は偉い王様だ。いや、大王様だ!」
 国民の喜びの声はそのままよその国にも伝わっていき、アザット王が『大王』と呼ばれるようになりました。
 また、その大王の宮殿で、待ち焦がれていた跡継ぎの王子が生まれたのは、それから間もなくでした。




~つづく~

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