今日は『文庫本コーナー』で、ポリネシアの民話、『フクロウの恩返し』をお送りしようと思います。
では、スタート!
フクロウの恩返し
☆
昔、南の方のある島に、カポイという若者が、病気の母を抱え、貧しい暮らしをしていました。
ある日の事。カポイは母に食べさせる魚を捕りに、湖へ行きました。
けれどもその日に限って、一匹の魚も捕れませんでした。
がっかりしたカポイは、すごすごと帰る途中で、草むらにあるフクロウの巣を見つけました。巣の中には、七つの卵が入っていました。
(良かった。病気の母には、魚よりもこの卵の方がいい……)
喜んだカポイがその卵を持って帰り、火の中に入れて焼こうとした時でした。
外の方で、不思議な声がしました。
「カポイ、カポイ! 私の卵を返しておくれ!」
悲しそうに叫んでいるのは、垣根にとまっている一羽のフクロウでした。
「そうか、お前か。でもな、この卵は、病気の母に食べさせるんだ。気の毒だが、返してやれないよ」
カポイは断ってまた火の中に入れようとしました。
「待っておくれ! 待っておくれ!」
慌てたフクロウは、家の中に入ってくると、カポイの前にしゃがんで言いました。
「ね、カポイ。どうしてもだめなら、卵の代わりに私を殺してお母さんに食べさせておくれ。私の方が、卵より栄養があるんだから……。そしてその卵は、あの巣の中に返しておくれ。ね、お願いします!」
そうまで言われると、カポイも考え込みました。と、これを聞いていた病気のお母さんがカポイを呼びました。
「カポイ。フクロウがあんなに言っているのだから、その卵は巣の中に返してやっておくれ」
「えっ、すると、卵の代わりにあのフクロウの方を……」
「いや、私はフクロウの肉なんて、とても食べる気はしませんよ。明日までがまんをしていればいいのだから……。フクロウも卵も、そのまま返してやっておくれ」
母の言葉に、カポイはほっとしました。
カポイにしても、フクロウを殺すなんてとても出来ない事だからです。
喜んだフクロウは、カポイに言いました。
「有難う、カポイ。このお礼はきっとします。――近い内にお母さんの病気の治る薬を見つけて、届けます。それから、雨漏りのするこの家も、立派な家に作り替えてあげましょう」
「え、そんな事が出来るのかね?」
「ええ、私の仲間たちみんなが力を合わせると、きっと出来ますよ」
しかし、カポイもカポイの母も、そんな事などあてにしていませんでした。
ところが、五日経った夕方でした。
畑の仕事から帰ったカポイは、驚きました。今朝までの、あのあばら家が、まるで王様の御殿のような立派な家に変わっているのです。そして、今朝まで寝たっきりだった母が、元気そうに起き出していて、夕食の支度をしているのです。
――なんと、不思議な事でしょう……。その不思議な噂は、すぐに島中に広がりました。
すると、面白くないのは、この島の王様でした。
「卑しい身分の者が、急にそのような立派な御殿なんか造れるはずがない。そいつは、きっと魔法使いかも知れないぞ。だったら今に、わしの命を狙ってくるかもしれない。早くひっとらえてまいれ!」
家来たちは、すぐにカポイを捕らえて、王様の前に連れてきました。
「カポイという不埒な魔法使いはお前か! この島に、魔法使いなどを生かしておくわけにはいかない。死刑だっ!」
カポイがいくら訳を話しても、王様は聞いてくれませんでした。
そして、とうとうカポイを死刑にする日が決まってしまいました。
これを聞いて、驚いたのはカポイに助けられたフクロウでした。
自分のお礼のつもりでやった事が、かえってカポイを不幸にしてしまったのだ。と思うと、気の毒でなりません。すぐに仲間を集めて相談しました。
一方、捕らえられたカポイの方は、とうとう処刑の日になってしまいました。
カポイは刑場に引き出されました。そして、家来たちが処刑の準備を始めた時でした。突然、刑場の空が真っ暗になりました。黒い雲が一面に……。いや、それは雲ではなくて、フクロウの大群でした。
フクロウたちは、家来たちを目がけて飛びかかり、鋭いくちばしで、頭を、顔を、突っつき始めました。
「うわっ、助けてくれ!」
家来たちは悲鳴を上げ、カポイをほったらかしたまま、命からがら逃げだしてしまいました。
「なにっ、フクロウの大群だとっ! そんなものが怖くて、処刑もせずに逃げてきたというのか!」
王様は家来たちを怒鳴りつけました。が、なるほど、誰もが血だらけで、大変な怪我です。
「よし、それでは別の新しい者どもを集めろ!」
しかし、その家来たちがまだ出発しない内に、フクロウの大群は、王様の御殿の方を襲ってきました。
「あっ、これは、物凄い敵だ!」
王様は、慌てて御殿の中に逃げ込みました。と、おつきの大臣が言いました。
「王様! これだけのフクロウの大群を動かすのは、人間や魔法使いにはできない事です。これは、きっと、神が怒ったからです。すぐにカポイを許す事にしましょう。でないと、家来たちはみんな殺されてしまいます!」
大臣に言われて、王様もやっと、自分のしていることが悪かったと気が付きました。
しばらく経って、王様が庭に出ていくと、フクロウたちの姿はもう消えてしまっていました。
そして、傷ついた家来たちの真ん中に立って、にっこり笑っているのはカポイでした。
王様は、自分の悪かったことを、心からカポイに謝りました。
そしてそののち、カポイは王様の家来になって幸せな一生を送りました。
――この南の方の島というのは、今のハワイです。ですから、ハワイの人々は、今でもフクロウを神の鳥として敬っているのです。
~おしまい~
うーん、神の使いに感じさせるほどのフクロウの数とは凄まじい絵面になっていそうですねぇ。
こういう王様みたいなのは結構登場しますが、今回は酷い目に合いつつも比較的穏便に終わった感ありました。