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 今日は久々に『文庫本コーナー』の記事でいきたいと思います。
 今回は時代劇小説、『下っぱ忍者』です。

 ではスタート!

下っぱ忍者


 この話は今から四百年余り前、日本のあちこちに大名が居て、お互いに戦い合っていた頃の話です。

 うっすらと名の花の匂いが匂う、ある春の晩の事です。越前の国、矢の根の里の領主、矢の根五郎左衛門(やのね・ごろうざえもん)の屋敷の前で、黒い影が一つ、むくりと地面から起き上がりました。
 影は、何かをパッと門の屋根に投げ上げました。
 ピシッ! と、小さな音がして、投げ上げたものは、太い綱のようになって、屋根から垂れ下がりました。だが、よく見ると、綱ではありません。いくつもの竹筒に、綱を通した物でした。殺気の小さな音はその綱の先の熊手が、わら屋根の骨組みの木に食い込む音でした。
 影は竹の節を手掛かりにして、するすると、屋根に上りました。とんと屋敷の中に飛び降ります。と思うと、屋根の上からはもう、さっきの竹筒が姿を消し、地上に降りたはずの姿も消えてしまいました。
 しばらくすると、影はまた現れました。屋敷の中の一番大きな建物の、玄関の前でした。影は腰の袋から、細く尖った道具を取り出し玄関の敷居の下に、穴を掘り始めました。

 この影は伊賀の忍者で、名を麦助(むぎすけ)といいます。伊賀の国の侍の百地源太夫(ももち・げんだゆう)に使われている下っ端の忍者です。伊賀の侍たちは、みんな下っ端忍者を何人も使っていて、あちこちの大名が、忍者が入り用だと言ってくると、その下っ端忍者を仕事に出してお礼のお金をもらいます。
 こんど百地源太夫は、矢の根五郎左衛門を殺すようにと、越前の朝倉義景に頼まれました。五郎左衛門はちっぽけな領主ですが、朝倉の言う事を聞きません。五郎左衛門はいくさに強い男だったのです。
 源太夫は麦助にその仕事を言いつけました。麦助はびっくりしました。
「一人でですか? あんなに強い侍を殺すのに。段三(だんぞう)と一緒にやらせて下さい」
 段三は、やはり源太夫の下っ端忍者で、麦助の友達です。高いところへ飛び上がるのが上手い男でした。
 源太夫は答えました。
「二人の忍者が、心を一つにして動くのは難しい。一人でやれ」
 一人で越前へ行く事になった麦助を、段三は国境の峠まで見送ってきました。二人は、峠の草の上に座りました。



「忍者はいつ、どこで死ぬかわからぬ。別れの酒だ」
 段三は、腰の竹筒に入れた酒を、やはり竹筒の盃についで、麦助に回しました。峠ではウグイスが鳴き、スミレが咲いていて、とても平和な感じでした。
 この時、段三は言いました。
「源太夫様は、俺達二人が親しくするのを嫌っているんだと思う」
 そうかもしれない、と麦助も思いました。もし、下っ端忍者たちが、心を合わせて源太夫に背けば源太夫は困ってしまいます。
 そして、下っ端忍者たちが源太夫に背くわけは、十分ありました。源太夫は大名からたくさんの金をもらうのに、麦助達にごくわずかの金しかくれません。だから、源太夫は下っ端忍者たちが仲良くなるのを嫌がっているのでした。



~つづく~
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